輝く月のように/ 2021年版マーキューシオについて

ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」2021年7月18日をもって日本での公演が無事に終了しました。

宝塚歌劇団星組、そしてもう1つのカンパニー*1が作り上げた「ヴェローナ」の世界に夢中になった日々は、かけがえのない幸せな時間でした。

今回はこの作品の中で大好きな人物である「マーキューシオ」を演じた2021年版のキャスト4名についての印象や好きな部分について書いていきます。

順番は下記の通りです!
よろしければお付き合いいただけると幸いです!

[目次]

1.極美慎さん/宝塚歌劇団 星組公演A日程*2

マーキューシオのキャスト4人の中で最も高身長、175cmと恵まれた体格、スタイルの良さ。すらっとした立ち姿がとっても美しい。
その場がぱっと華やぐようなきらきらしたオーラ。甘く爽やかなルックスで、髪色は赤寄りのピンク。長めの襟足が似合う!

一言で表すと、やんちゃで無邪気なお調子者。喜怒哀楽や感情表現が素直だけど気分屋で気まぐれな狂犬。一度ヒートアップしたら自分の理性では止められず、本能のままに狂ってしまいそう。享楽的ではあるけれど、刹那的ではないところが好き。 ヴェローナの歌詞の中で評される「持て余すエネルギーを喧嘩に使う」がぴったり!

憎しみの場面でナイフを空に翳しながら刃の部分に口づけをした時のうっとりとした表情が好き。闘いの後の高揚感に浮かれて心酔している感じ。狂気の世界へと導かれているような危うさがある。

世界の王では娘役さんの肩に手を回した後にさり気なく頭をポンポンと触れていて、女性を落とすテクニックを知っているというよりは、無意識に出てしまったような、天性の女たらしという感じがずるい。

街に噂が、の場面ではロミオにモンタギューの跡取りとしての責任と義務を容赦なく突きつけるところが好き。ロミオの主張に揺らいでいないし、その情熱にも負けない芯の強さがある。真っ向から憤り、怒りを伝える極美マーキューシオのモンタギューへの愛情深さを感じる。

極美マーキューシオに応じるのは愛月ひかるさん*3演じるティボルトだけど、彼との関係は水と油。彼らが混ざり合う事は一切ないから反発する事しか出来ない。

決闘の頃にはロミオへの苛立ちがピークに達してるからティボルトに軽口を叩いて、それに応じたティボルトの挑発にも軽率に乗ってしまう。死が宿したのは黒い炎だったけど、極美マーキューシオが育てたのは仲間想いの、ロミオを守りたい青年の愛から生まれた憎しみの刃だったのかな、と思う瞬間があって胸が詰まってしまった。

マーキューシオの死、息を引き取る前に笑顔を浮かべながら、オフマイクで「ロミオ、ありがとう」とはっきりと口にするところが大好き。ロミオとベンヴォーリオに手を握られたまま、ゆっくりと目を閉じた後の表情も素敵。

宝塚版での僕は怖いのリプライズでは、暗闇の中で目を覚ました時に自分の膝を拳で叩きながら後悔の表情をしていたけれど、宝塚カフェブレイク*4にて、その時の気持ちについて「死にたくなかった」「ロミオと一緒にいたかった」「でもロミオが死ななくて良かった」「結局自分はこういう生き方なのか。孤独だ、と生前の生き方への想いが募る」と話していたのが印象的だった。

ロミオやベンヴォーリオを大切に思っているけれど深く依存はしていない。かと言って性格が尖っていたり、斜に構えている訳ではなくて、モンタギューの一員かつリーダーとして楽しく生きている。だからこそティボルトと対峙した際に、闘いの興奮の中で、彼が蓋をしたはずの負の感情に飲み込まれてしまい、狂気の果てに行き着いてしまった姿が恐ろしく、そして哀れに思える。

極美さん(@かりんちゃん)ならではの陽の雰囲気を持ったマーキューシオは、私の中で思い描いていたマーキューシオ像には無い魅力がたくさんあったので興味深かったです!

2.天華えまさん/宝塚歌劇団 星組公演B日程*5

涼し気な色気を纏って、優雅に舞い踊る。右サイドに蜘蛛の巣状のラインが入った剃り込み。右眉の2本の剃り込み風のメイク。紫のメッシュが入った暗めの髪色。紫は「赤と青の中間色。生まれたものの色からは抗えない、というのを表現したかった」と見た目にも深いこだわりを持って役を作り上げるところが好き。

一言で表すと、人懐っこい笑顔の裏に、激しい愛憎を抱えている繊細な青年。狂気の淵にいるけれど、その一線を超える事は絶対に出来ない。刹那的ではあるけど爛れてはいないので、高潔さが感じられるところが良い。

世界の王のマーキューシオパートの「新しいルールは」をキーを上げて歌ってくれるところが大好き!

ハスキーな声質と粋で遊び心のある歌い方が楽曲の妖しい雰囲気にぴったりなのはマブの女王。「むせ返る匂い」や「柔らかい肌に」妙に生々しい質感があるような、歌詞の情景を想像させる表現力がお見事。

女性の扱いには長けていて意外にも上品。でも女性との絡みで天華マーキューシオの心が満たされる事はなくて、寂しさや苦しみを紛らわせるものでしかない感じがする。

街に噂がの場面では「街中が皆知ってるぜ お前が彼女を誑かしたと」が好き。街中に噂が広まってそれがロミオの「真実」になっているのが耐えられない天華マーキューシオの悲しみ、憤り、悔しさがごちゃまぜになった嘆きの声。その後、ロミオにナイフを突きつけた時の覚悟は揺るぎないもので、でも自分を上回る力でロミオに一気に振り払われた時に、全てを悟ってしまう。

天華マーキューシオに応じるのは瀬央ゆりあさん*6演じるティボルトだけど、自分の弱さやコンプレックスが鏡のように映る相手なので、お互いに同族嫌悪している事が良く分かる。

マーキューシオの憤りとティボルトの狂気がそれぞれ膨れ上がり、限界に近い状態の2人がお互いの感情に共鳴した決闘の場面。
鬼気迫る台詞の応酬には毎公演息を呑んでしまった。観客ではなく事件の目撃者として存在するような、物語の中へ1段階引き寄せられた感覚だったかな。

マーキューシオの死では、致命傷を負ってその場に崩れ落ちてしまう描写の緻密さ、息を引き取るまでの過程、「いきなりシェイクスピア」とも評されるような台詞であってもしっかりと感情を乗せていてなおかつ違和感を感じさせないところが好き。役として血を通わせて舞台上に息づいているところが素敵。

僕は怖いリプライズでは、決闘の頃とは打って変わって不安や恐怖に慄き小さくうずくまるところが切ない。暗闇を彷徨いながら踊る時の表情が苦しそうで天華マーキューシオの自由な魂は死に支配されてしまったように思える。

仮面舞踏会や決闘の場面でティボルトからロミオを懸命に守ろうとする姿、そして綺城ひか理さん演じるベンヴォーリオとのニコイチ感が好き。マブの女王の場面の去り際で天華マーキューシオが綺城ベンヴォーリオに抱っこをおねだりする様子を見た時は本当にびっくりした。マーキューシオが世話を焼かれる姿は想像した事があっても、マーキューシオから積極的に甘える姿を想像した事がなかったので新鮮だった。
ロミオやベンヴォーリオとの友情は心の支えであり、彼らの為に死ぬ覚悟がある。さらに言うと彼らがいないと生きていけない、とさえ感じるような脆さや儚さも内包していたと思う。

マーキューシオに対する疑問点や引っかかる部分が解消されて解像度がグッと上がったのは、天華さん(@ぴーちゃん)が丁寧にお芝居を構築してくれたからこそでした!

3.新里宏太さん

張りのある歌声と伸びやかな高音が魅力的。髪型はツーブロックでサイドパート、ストレート。もう一人の、髪色がピンクのマーキューシオ!
敵対する相手を品定めするようにジトッと睨みつける時の三白眼。口角を釣り上げて嘲笑う姿が好き。ネイルはオレンジピンクとシルバーのラメ。

一言で表すと、鬱屈した感情に囚われてニヒルで危うい雰囲気を持つ青年。
不良と非行の間の際どいライン上にいる。モンタギューの仲間たちからは一目を置かれていて少し近寄りがたいところもあるけれど、根は優しい。大人たちやキャピュレットへの嫌悪感は強い。

憎しみの場面の直前にティボルトに対して「またな〜!」と言いながら立ち去るところや、仮面舞踏会で「神のお導きだ!」とナイフを取り出して威嚇した後に仮面を剥がし、ニィッと口の端を釣り上げて満足そうな笑顔をティボルトに見せながら去っていくところが好き!役の解釈としても素晴らしかったです。

楽譜の本来の音程よりもさらに上の音程で歌い上げるマブの女王のアレンジは、楽曲をしっかりと歌いこなした上で挑戦する姿勢がかっこいい。

街に噂がの場面では、ロミオに対して真っ直ぐに疑問や「友達ではない」と強めの口調で感情をぶつけていて、新里マーキューシオの感情の中では怒りが特に大きいのかな。ジュリエットと結ばれる事を選ぶロミオの気持ちを分かりたくない、許したくもない感じで「もう終わりだ!」と告げた様に思った。

決闘の場面の殺陣では、腕を大きく振りかぶって殴る動作の迫力があって見応えが抜群。敵対する相手を殴る、蹴るたびに「ひゃははは」という笑いが止まらない姿が印象深い。憂さを晴らす虚しさから来る乾いた笑いであって快感や興奮を表すものではないところが切ない。
終盤のティボルトとの一騎打ち、ティボルトの腕を切りつけた後にその返り血のついたナイフをペロっと舐める様子を見せつけて彼を嘲笑っていたのが堪らなかった。

マーキューシオの死は周囲に心配をかけないようにと気丈に振る舞い、子どもをあやしているような柔らかい歌い方だったと思う。
「泣くのはガキだけだぜ」とロミオの頬をぽんぽんと掌で優しく叩くところが好き。「愛する友よ 別れの時だ」でロミオの頬に手を添えながらまっすぐ目を見て微笑みを残していくのが切なかった。

今までに様々なアプローチで構築されてきたマーキューシオ像を崩さず、そして新里くんから滲み出てくる色の足し方が絶妙で、そのセンスとバランス感覚の良さで他の誰にも真似できないマーキューシオが確立されていて素敵でした!

4.大久保祥太郎さん

歌、ダンス、お芝居、どれを取っても隙がなく、身のこなしがしなやか。髪型は毛先が縦にくるくると巻かれている大きめのウェーブ。髪色はベースが銀色、ショッキングピンクと紫のメッシュが入っている。ネイルは黒と青。

一言で表すと、喧嘩と楽しい事が好きな、仲間想いの青年。モンタギューのリーダーとしての責任感が強めで、仲間たちとのアイコンタクトやスキンシップが多い。敵対心や対抗心を向き出しにしているけれど、さらに重苦しい感情が心の奥底でぐつぐつと煮え滾っている。

仮面舞踏会に参加している女性に積極的に絡みに行くところが「遊び人」のマーキューシオらしさ全開で好き。所作が優雅なところがずるい。

街に噂がの場面では、ジュリエットを誑かしたという噂を信じたくないけれど決定的な証拠があってロミオの事を信じきれない。「嘘だ!」と否定された時から次第にロミオの気持ちが分かるようになって、でも、それを自分達は受け入れる事は出来ない。かけがえの無い居場所を失うかもしれないという寂しさや悲しさの感情が滲んでいた。

決闘の場面の殺陣では、回し蹴りやスライディングといった足を使う動作が華麗で見惚れてしまう。戦いの中でマーキューシオを引き止めようとするロミオから必死に目を逸らそうとする姿が辛い。ティボルト本人への憎しみはあるけれど、それよりもティボルトが抱えていた苦しみに共感している部分が大きかったように思う。

マーキューシオの死では刺された直後は何が起きているのか分からないと言った表情でパチパチと瞬きを繰り返して、浅い呼吸になり動揺している様子の表現がとても上手。「お前の腕の中で」「愛する友」という歌詞の時にロミオだけではなくベンヴォーリオの方を見て、その二人の手を取るところが大好きです。

大久保くんのマーキューシオは味方良介さんのベンヴォーリオとは悪友感、前田公輝さんのベンヴォーリオとはニコイチ感を出していて、同じ場面でもリアクションやアプローチが異なるので見ていてとても楽しかったです。


【余談】
ベンヴォーリオとマーキューシオのコンビで宝塚版と外部版で印象が似ていたと思うのは下記の組み合わせです!

瀬央ベンと極美マキュ:味方ベンと新里マキュ
綺城ベンと天華マキュ:前田ベンと大久保マキュ

宝塚版の組み合わせは固定なので全編映像が収録されていますが、外部版のこの組み合わせはゲネプロの映像もしくは円盤の特典として収録されるダイジェスト映像で見る事が出来ます。
 

5.総括

マーキューシオという役が好きなのか、それとも演じた役者が好きなのか、とずっと考えていたのですが、答えは両方が好き、なのかなと思います。
4者4様に魅力的なマーキューシオと役者に出会えて幸せでした。
またいつかヴェローナで新しいマーキューシオに出会える日を楽しみにしています。ここまで読んでくださってありがとうございました!

*1:外部版とも呼ばれている/主催はTBS、ホリプロなど男女混合キャストで上演

*2:B日程では役替りでパリスを演じる

*3:星組の2番手スター B日程では役替りで死を演じる

*4:宝塚の公演や情報を特集する30分間のトーク番組。司会は中井美穂さん。公演中はタカラジェンヌ1名が週替りでゲスト出演するhttps://s.mxtv.jp/variety/takarazuka/

*5:A日程では役替りで死を演じる

*6:星組の3番手スター A日程では役替りでベンヴォーリオを演じる